片親疎外の中ででっちあげられる虐待

■虐待のでっちあげ
 親と引き離れた子どもは、つまらない、たいてい馬鹿げた理由で親を拒絶します。しかし、ある割合の子どもが訴える理由は、くだらないとはとてもいえません。そうした子どもが訴える理由は、離婚問題にかかわる専門家に、監護権訴訟の「核兵器」として知られています。それは身体的虐待や性的虐待の申し立てです。
 そうした申し立てはきわめて強力で、ほとんどの場合、すべての通常の面会交流が、裁判所の指示で即刻禁止されます。子どもが本当に虐待の犠牲者であるとき、裁判所の指示は子どもをさらなる危害から守ります。しかし、子どもが虐待をでっちあげるように操られているとき、面会交流の即刻禁止は片親疎外を強化し、ときに親子関係を完全に断絶させるきっかけになってしまいます。
 子どもが虐待をでっちあげることなどない、と主張する人もいます。それは間違っています。でっちあげは確かに起きています。それは、単純な誤解から監護権を勝ち取るための悪意のある攻撃まで、さまざまな程度があります。
 パパが「大切な部分」を触ったと幼い女の子が言いました。母親はものすごく心配になり、面会交流の即刻禁止と、家庭裁判所の調査官による調査を求めました。調査の結果、その日女の子は幼稚園であるプログラムに参加していたことが明らかになりました。そのプログラムは、性的虐待から身を守ることを教える内容でした。講師の警告の言葉が子どもの心に残っていて、その夜子どもが父親とお風呂に入った後、母親にこの言葉を大げさに伝えたのです。このような誤解が明らかになった場合、申し立てた親も子どもが虐待されていなかったことに安堵し、速やかに面会交流の再開を了承すべきでしょう。この事例では、子どもは引き離されてませんでした。
 しかし、"離婚毒"によって親と引き離された子どもが虐待をでっちあげた場合、状況はまったく異なってきます。一般的に、そのような事例の子どもは、この章で述べる他の特徴も持っています。必ずというわけではありませんが、多くの場合、虐待の申し立ての詳細は次第に大げさになり、より深く信じ込まされていきます。調査によって、標的にされた親の無実が明らかになった後でさえ、子どもと偏愛されている親が、虐待の申し立てにしがみつく場合もあるのです。
 虐待をでっちあげていることがわかっている子どももいます。自分自身で、あるいは親の差し金で、嘘をつくことを決めたのです。ある子どもは、身体的虐待を申し立てるために、ちょっとした躾のげんこつを、誇張して言い触らしました。別の子どもは、身体的虐待や性的虐待をでっちあげるように親から言い渡され、最初こそ疑問を持っていたのですが、やがて自分が虐待の犠牲者であると信じるようになりました。言い換えると、そうした子どもは意識的に嘘をついているのではありません。彼らは偽の物語を信じているのです。

 ●でっちあげの発生
 アメリカ心裡学会が表彰して出版した有名な本があります。その本は、自分に悪いことが起きたという嘘の話によって、子どもが簡単に操られてしまうことを示しています。コーネル大学教授のスティーブン・セシ博士と同僚のマギー・ブルック博士は、『法廷の危険性』(未約)で、子どもを虚偽の申し立てに導く会話の種類を明らかにした研究を報告しています。
 ある研究では、ネズミ捕りに指が挟まって病院で取ってもらった、というような出来事があったかどうかを、子どもに何度も尋ねました。すると、定期的な10回目の質問時点で、半数以上の子どもが、作り話の出来事は実際にあったと語ったのです。それどころか、子どもが語る嘘の話は入念に脚色されており、専門家も出来事の虚実を見分けることができませんでした。さらに印象的なことは、研究者が子どもに、そんな出来事は実際にはなかったと告げた後でも、多くの子どもは、その出来事があったことを覚えていると言い続けたというのです。ABCニュースの記者ジョン・シュトーセル氏は、テレビ番組『20/20』でその研究に参加した子どもたちにインタビューしています。ある4歳の子どもは、ネズミ捕りの話は全部作り話で、そんな出来事はなかったと、すでに両親から伝えられていました。けれdも、シュトーセル氏が「ネズミ捕りに指が挟まったの?」と聞くと、両親が横にいたにもかかわらず、この子どもはその出来事を覚えていると答え、詳しく説明したのです。シュトーセル氏が子どもに、お父さんとお母さんはそんな出来事はなかったといってると伝えても、その子どもは「本当にあったんだよ。ぼく覚えてるもん!」と言い張りました。
 他の研究もあります。「サム・ストーン」という名前の訪問客が、幼稚園を訪れました。その訪問客は「こんにちは」と挨拶をして、2分間教室を歩き回り、そして「さようなら」と言って去っていきました。それだけです。彼は何も触りませんでした。続く10週間の間に、子どもたちはサム・ストーンの訪問について尋ねるインタビューを、4回受けました。4回目のインタビューの1ヶ月後に、別の大人が子どもにインタビューしました。そのとき、実際には起きていない二つの出来事について尋ねました。「サム・ストーンは本とテディベアに、何かしましたか?」
 その結果、事前にサム・ストーンの悪口を聞かせたり、あるいは誘導尋問したりすると、子どもがサム・ストーンの行動について嘘の報告をすることが見いだされました。たとえば、「サム・ストーンは鈍くさい」という悪口が、サム・ストーンの訪問前に子どもに伝えられました。

 昨晩誰が来たと思う?(間を置く)そう。サム・ストーンよ!彼は何をしたと思う?彼は私のバービー人形を借りて会談を下りていたとき、つまづいて階段から転げ落ちて、バービー人形の腕を壊したのよ。サム・ストーンはいつも事件を起して、何かが壊れるの!

 サム・ストーンが訪問した次の日、子どもは汚れたテディベアを見せられました。サムが訪問したときは教室になかったものです。そして、テディベアが汚れた理由を知っているかと尋ねられ、以下のような誘導尋問が行われました。「サム・ストーンが教室にやってきて、白いテディベアをチョコレートで汚したときのことを覚えている?彼はわざとやったのかしら?それとも偶然こぼしたのかした?」。
 この研究によると、最終回のインタビューの時点で、驚きべきことに72%の子どもが、サム・ストーンにねつ造された罪を負わせました。ネズミ捕りの研究と同じように、子どもたちは細かく脚色された作り話を語ったのです。たとえば、ある子どもは、チョコレート・アイスクリームを買うために店に入るサム・ストーンを見た、と報告しました。この研究でも、子どもたちは専門家をだましたのです。
 研究者たちは、子どもたちにインタビューしたビデオテープを、児童虐待の専門家たちに見せました。専門家たちは、どの出来事が作り話でどの出来事が実際に起きた事実であるかを見分けることに、自信満々でした。しかし、専門家たちは見分けることができませんでした。それどころか、専門家たちが最も正確な事実を報告していると判断した子どもが、最も不正確だったのです。サム・ストーンを、ママやパパと入れ替えてみてください。操られた子どもが、親について説得力のある作り話を語りうることが、おわかりいただけたでしょう。記憶研究の第一人者エリザベス・ロフタス博士は、「記憶を尋ねられたとき、生き生きとした詳しい状況が確信とともに語られたとしても、必ずしもその出来事が実際に起きたとは限らない」と述べています。
 虐待されたという作り話は、片親疎外による子どもの傷つきを、さらに深くしてしまいます。親から性的に虐待されたと信じている子どもは、実際に虐待されて苦しんでいる子どもと同じ問題を抱えます。子どもはまるで、実際に虐待されたかのように、自分の養育者を信じることができなくなってしまいます。それだけでなく、性に対する見方が児童期に傷つけられると、大人になってからセクシャリティの問題を抱えやすいと考えられています。親密な人間関係を信頼する力が弱まるからです。
(54〜57頁)

離婚毒―片親疎外という児童虐待

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