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母性的養育の剥奪と愛着・絆の研究(4)

心の臨床家のための精神医学ハンドブック

(4) 親の離婚・再婚における子どもの対象喪失

 母性的養育の剥奪の研究は、第二次世界大戦によって家族を失った不幸な子どもたちを対象として着手されたが、現代の平和社会における子どもたちの対象喪失の主役は、特に欧米では、親の離婚・再婚にともなって生じる対象喪失である。欧米のように、離婚・再婚率が高度の社会では、親の離婚・再婚に対する子どもの適応過程全体の中にどう位置づけるかが課題になっている。親の離婚にともない子どもは、(1)離婚に先立つ家族内葛藤の経験、(2)離婚そのものにより対象喪失と離婚をめぐる動乱の体験、(3)片親家庭になったことにともなう社会的、経済的、心理的変化の体験、(4)離婚後の各々の親との変化した親子関係の体験を経過すると言われている。
 さらに、離婚後の片親家族になった場合には、その片親および子どもたちは何らかの意味で深刻な対象喪失を経験しながら片親家庭を維持する。この場合の片親家族が母子家庭か、父子家庭か、死別家庭か、離婚家庭か、別居家庭かによって、その対象喪失の体験内容は異なるが、一般に死別の場合の方が子どもは残された親への気兼ねなく死んだ親を理想化し、同一化することができる。一方、理想化された親の像に支配されたり、強い罪悪感を抱くことがあると言われている。さらに、米国のように多くの親が次に再婚する場合には、子どもたちは新たな対象喪失を体験しなければならない。
 再婚家庭は一般に、家族全員が重大な対象喪失の体験者である。つまり、婚姻関係の解消、親子の別離、近隣からのサポートの喪失などを体験している。さらに、親が再婚するときに、親にとって最も喜ばしい再婚の時期に、子どもは最も強い対象喪失を味わう。子どもは別れた親を失うだけでなく、現にともに生活し、依存している親を再婚相手によって奪われる体験をもつからである。
 このような親の再婚を子どもにどのように告知するかしないか、子どもと再婚する親との間にどのような情緒関係や絆が形成されているかが、対象喪失を子どもが体験するときの重要なテーマになる。さらに、離婚・再婚家庭の子どもの対象喪失の中には、maternal deprivation の最近の研究にも示唆されるように、単なる対象としての親の喪失だけでなく、全体の生活の場、例えば家とか近隣の友人関係、学校とか、それらのものについての連続性がどの程度得られているか、失うかが、子どもたちがmourningを営む上でので重要な条件になる。
とりわけ親の離婚・再婚の全経過において祖父母の存在と役割の重要性が注目されている。なぜならば、祖父母は子どもたちにとって最も連続性の高い安定した拠り所になりうるからである。