ハーグ条約 「子の返還拒否は著しく違法」最高裁初判断

ハーグ条約 「子の返還拒否は著しく違法」最高裁初判断

毎日新聞2018年3月15日 16時22分(最終更新 3月15日 23時29分)
 国境を越えた子の連れ去り防止を定めた「ハーグ条約」に基づく裁判所の返還命令に従わないのは違法だとして、米国在住の父親が息子(13)を連れて帰国した母親に子の引き渡しを求めた人身保護請求の上告審判決で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は15日、「父親の請求を認めるべきだ」として、父親側敗訴とした1審判決を破棄し、審理を名古屋高裁に差し戻した。

父敗訴の1審破棄

 最高裁は「裁判所の返還命令に従わず子を保護下に置くことは、特段の事情がない限り著しく違法な身体拘束に当たる」との初判断を示した。国内では、子を連れ帰った親がハーグ条約に基づく裁判所の返還命令に従わないケースが相次いでおり、最高裁は条約手続きの順守を強く促した形だ。
 判決によると、争っているのは米国で暮らしていた日本人夫婦。母親が2016年に息子を連れて帰国したため、父親がハーグ条約の国内実施法に基づいて東京家裁に息子の返還を申し立てた。家裁は返還を命じたが、母親は応じず、強制執行のために執行官が自宅を訪れた際にも引き渡しを拒んだ。
 父親は息子の引き渡しを求めて人身保護請求の裁判(2審制)を起こしたが、1審の名古屋高裁金沢支部は昨年11月、「息子は自らの意思で日本に残ることを選んだ」として請求を退けた。
 これに対し最高裁は、息子の意思について「11歳で帰国して母親に依存せざるを得ず、母親の不当な心理的影響を受けていると言わざるを得ない」と指摘し、本人の自由な意思とは言えないと判断した。その上で、息子の引き渡し手続きを行わせるために高裁に差し戻した。裁判官5人全員一致の意見。
 ハーグ条約は、親の一方が断りなく16歳未満の子を国外に連れ出した場合、残された親の求めに応じ、原則として子を元の国に戻さなければならないとしている。日本は14年に加わり、昨年10月までに98カ国が加盟する。【伊藤直孝】

子巡る争い、長期化回避

 ハーグ実施法の引き渡し命令を拒むことが原則として違法になると示した15日の最高裁判決は、子を巡る親同士の争いが長期化することを避けようとする狙いがあるといえる。
 外務省によると、同法に基づく裁判所の返還命令は今年2月までに23件出された。このうち6件で引き渡しの強制執行に至ったが、いずれも親の抵抗で実現しなかった。
 人身保護請求の判決に従わない場合は、2年以下の懲役や罰金の刑事罰が科される可能性がある。条約の手続きに詳しい山本和彦一橋大教授(民事法)は「今回の判決により、両親の争いが早期に和解や調停で解決されることが期待できる。返還命令が十分履行されないと言われる現状について、制度の再考を示唆したとも言えるのではないか」と見る。
 今回のようにハーグ実施法、人身保護請求と異なる裁判を繰り返す当事者の負担は大きい。弁護士の間では、ハーグ実施法の執行手続きが「厳密すぎる」との批判もある。子の利益を最大限に重視した上で、親同士の泥沼化する争いをどう決着させればいいか、更なる議論が求められる。【伊藤直孝】

https://mainichi.jp/articles/20180315/k00/00e/040/320000c

2018.3.15 15:18更新

子の返還拒否は「違法」 ハーグ条約最高裁が初判断

 両親の離婚などで国境を越えて連れ去られた子の取り扱いを定めた「ハーグ条約」実施法に基づく返還命令が確定したのに、従わないのは不当として、米国在住の父が日本在住の母に次男(13)の引き渡しを求めた人身保護請求の上告審判決で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は15日、「返還命令が確定したにもかかわらず、子を拘束している場合は、特段の事情がない限り違法」との初判断を示した。父側敗訴とした名古屋高裁金沢支部判決を破棄、審理を高裁に差し戻した。
 5裁判官全員一致の結論。人身保護請求は不当に拘束された人の釈放を求める手続きで、ハーグ条約での返還が実現しないケースをめぐる初の最高裁判決。同種事案での返還命令に実効性を与えそうだ。
 同小法廷は、海外から国内へ連れ去られた子が「拘束」されているといえるかは、(1)子が意思決定に必要な多面的・客観的な情報を十分に得ているか(2)連れ去った親が不当な心理的影響を及ぼしていないか-などを検討して判断すべきだと指摘。父と十分に意思疎通する機会がなかったことなどから、次男は「拘束」されているとした。さらに、確定した返還命令に従わないのは原則、違法と判断。「父に引き渡すべきだ」として審理を差し戻した。
 日本人の両親は米国で暮らしていたが、平成28年1月、母が次男と帰国。父は実施法に基づき次男の返還を東京家裁に申し立て、返還命令が11月に確定した。

ハーグ条約  一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子を国外へ連れ出すケースに対応するため、1980年に制定された国際ルール。国際結婚の増加に伴う子供の連れ去り問題に対応するために日本も加盟し、2014年4月に発効した。昨年10月現在、98カ国が締結している。16歳未満の子が対象で、原則として元の居住地へ返還するとしている。

http://www.sankei.com/affairs/news/180315/afr1803150038-n1.html

子の引き渡し拒否「違法」=ハーグ条約で初判断-米在住の夫が訴え・最高裁

 結婚生活の破綻などで国外に連れ去られた子供の扱いを定めたハーグ条約に基づく返還命令に応じないのは不当だとして、米国在住の夫が日本に住む妻に息子の引き渡しを求めた人身保護請求の上告審判決で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は15日、命令に従わないのは「特段の事情がない限り違法」との初判断を示した。その上で、夫の請求を退けた一審名古屋高裁金沢支部判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
 争っていたのは、米国で暮らしていた日本人夫婦。関係が悪化し、妻は2016年、米国生まれの次男(13)を連れて日本に帰国した。
 夫はハーグ条約に基づき次男を米国に帰すよう求め、東京家裁が返還を命令したが妻は拒否。執行官が引き離す強制執行にも抵抗したため、夫が人身保護請求の裁判(二審制)を起こした。
 第1小法廷は、国境を越えた連れ去りでは「子が意思決定に必要な情報を偏りなく得るのは困難」と指摘。妻側は「次男は日本での生活を望んでいる」と訴えたが、帰国時に11歳だったことなどから自由意思とは言えないと退け、不当な「拘束」に当たると判断した。
 その上で、返還命令に従わないのは原則として違法と判断。次男を引き渡すには法廷に出頭させる必要があるため、審理を高裁に差し戻した。(2018/03/15-19:17)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018031500919&g=soc